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水戸地方裁判所土浦支部 昭和46年(ワ)36号 判決

主文

原告らの請求は、いずれも棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人は、「被告は原告関東鉄道株式会社に対し五七三、三九〇円、原告横田三行に対し三五五、三〇〇円とこれに対する昭和四六年四月一七日からそれぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決と仮執行の宣言とを求め、その請求原因として、別紙(一)のとおり述べ、証拠として、「甲第一号証、第二号証の一から一〇、第三号証の一から六、同号証の七の一、二、同号証の八の一、二、同号証の九から一八を提出し、証人小島元太郎、同長谷川一種、同小松崎達二の各証言を援用する。」と述べた。

被告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決を求め、答弁として、別紙(二)のとおり述べ、「甲第二号証の一から一〇の成立はいずれも知らない。その余の甲各号証の成立はいずれも認める。」と述べた。

理由

原告ら主張事実中、訴外桜井茂が本件事故当時被告の被用者であつたこと、同人が原告ら主張の自動車(以下被告車という。)を運転し、その主張の日時、場所において事故を発生させた事実は、当事者間に争いがないところ、〔証拠略〕を総合すれば、桜井茂は、ブロツク工として被告に勤務し本件事故当日は作業現場である被告の事務所新築工事のブロツク塀造成工事を行い午後五時ごろ作業を終了し間借していた波崎町須田五、四二五訴外村田岩雄宅一〇畳間において同僚の訴外岩城礼治、同椎名某および同相良某とコツプ酒を飲みはじめ約一時間過ぎてから岩城礼治の発言で更に飲みに行くことになり当日相良某(自動車免許取得者)が運転し間借先の庭に置いてあつた鍵のついていた被告車を椎名某が運転し訴外長島屋で飲酒し、更に銚子に飲みに行くこととなり、今度は桜井茂が無免許で運転したが酒酔いのため注意力が散漫となり、前方注視が困難な状態のもとに本件事故を発生させたこと、被告の社長は本件事故当夜原告会社社員小島元太郎に申しわけない弁償するから勘弁してくれと申し入れ当夜はその程度で交渉は終了したが、その後示談に応ぜず示談契約は成立していないことが認められる。他に右認定事実を覆すに足る証拠はない。右認定事実によれば、桜井茂はブロツク工として被告に雇われ、本件事故当日ブロツク造成工事に従事していたものであつて、被告の命令では被告車を運転したことはなくまたブロツク造成工事中無断運転したことはないこと、被告車の運転者は相良某であると窺い知ることができ、本件事故は被告の事業の執行中に発生したものでなく桜井茂の私用による無断運転の結果発生したものであるから、同人は本件事故によつて原告らの蒙つた損害を賠償する責任があるとみとめられるが、被告には本件事故について民法第七一五条の責任はないことを認めることができる。

原告らが被告に対し民法第七一五条の責任を求めている本訴請求はその余の点を判断するまでもなくいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 荒井徳次郎)

別紙(一)

一 桜井茂が被告の被用者であり、同人が被告所有の自家用小型貨物自動車(以下被告車という。)を運転して昭和四五年九月一〇日午後九時三五分ごろ鹿島郡波崎町字古野山一、一三八の一原告会社波崎営業所前を銚子方面に向つて南進する際、運転操作を誤り道路と右営業所構内境界の金網を破り構内に乗り入れ原告横田三行所有の小型乗用自動車に衝突、破損させたうえ、原告会社波崎営業所の建物にも衝突破損させたものであるから被告は原告らに対し民法第七一五条により本件事故によつて蒙つた損害を賠償する義務がある。

二 損害

原告横田三行所有車の損害金は三五五、三〇〇円であり、原告会社波崎営業所建物ほかの修理費は五七三、三九〇円であるから、原告らは被告に対し右金員と本訴状送達の翌日である昭和四六年四月一七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

なお、被告の主張に対し桜井茂は本件事故当日も被告から被告車によつてセメントを他に運搬方を命ぜられ、そのため被告車の鍵を預り助手とともにこれを運搬し、知り合いの農家に立寄つて飲酒し被告会社に帰途本件事故を発生せしめたものであること、被告会社代表者が本件事故当夜原告会社社員に対し責任全部を認めていること。

別紙(二)

桜井茂が本件事故当時被告の被用者であつたこと、同人が被告車を運転しその日時、場所において本件事故を発生させた事実は認めるがその余の事実はすべて争う。本件事故は桜井茂が勝手に被告車を持ち出し自己の私用に使用して発生せしめたものであるから本件事故は被告の事業の執行とは全く無関係であり、被告は民法第七一五条の使用者責任はない。

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